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……一体、何を考えてるんだ?
「水野はお前のこと、すっげぇ好きだったと思うんだ。夢でうなされれてる姿、昨日見てるし……。俺といてもアンタの影を、どこか捜してる気がするし」
「そんなことないよ!」
「俺には分かるんだ。水野が好きだから、分かるんだって!」
頭を上げた翼が、俺の顔を見る。
「水野、左手出せよ」
その台詞に、心がキュッとなった。以前山上先輩に言われて、左手薬指を強く噛まれた記憶――
「……もしかして、噛むの?」
おどおどしながら言うと、眉間にシワを寄せて睨む。
「山上は、噛んだのかよ?」
「う、うん……。噛み癖ある人だったから」
「やっぱ、思い出してんじゃねぇか。まったく……水野の肌、色が白いから痕つけたくなるの、分からなくはないけど」
口を尖らせながら、強引に俺の左手をぎゅっと握る。その手がとても温かくて、心地良かった。
「ガキはガキなりに、形に残る物を贈るんだよ」
そう言って、ズボンのポケットから指輪を取り出し、薬指にスッとはめてくれた。
「受験勉強しながら、こっそりバイトして貯めた金で買った物だから、安物で悪いんだけど。受け取ってくれないか水野」
(――もしかして、その無理がたたって、風邪を引いたというのだろうか?)
「イヤだと言っても、もうはめちまったからな。俺が学校に行ってる間、浮気すんじゃねぇぞ」
ここ数カ月で、一気に大人になった翼。俺は、どうしていいか分からないよ。
「うっ……ありがとう。大事に、するね……」
どうしていいか分からず、左手を右手でしっかり掴んで、泣くことしか出来なかった。胸にこみ上げる想いが溢れ出てきて、体中が喜びでみち震えている。
「おいおい。人前で泣くなんて、みっともないことを、しないんじゃなかったのかよ」
口では文句を言いつつも、しっかりと俺を抱きしめてくれる。
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