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それは俺にとって、悪夢というのだろうか?
あるときは深い霧に覆われた、森の中から……またあるときは深海から響くような声が、耳に聴こえるんだ。
『水野……水野……』
俺のことを必死になって捜す、聞き覚えのあるハスキーボイス――
声の主が見えないその夢は、決まって朝方に見る。胸がぎゅっと締め付けられる感覚に襲われながら、返事をしようと声を出す瞬間に、目が覚めてしまう。
「……この夢を見た後っていつも、何かがあるんだよねぇ」
大きな事件が発生したり、怪我したり叱られたりと、大抵良くないことばかりが起こる。
あの世から心配して、わざわざお知らせさせちゃうなんて、俺もまだまだってことだよな。
「おはよ、山上先輩。今日も頑張るね」
寝覚めが悪いわけじゃないけど、冷たい水で顔をジャブジャブ洗った。気分をシャキンと引き締めて、颯爽と出社する。
午前中は溜まっていた領収書やら、書類の整理をしていた。滞りなく作業が捗り、何事も起こるなよと心の中で、願を掛けていたけれど――
「ミズノン、デカ長がさっきから呼んでるよ。早くしないと雷、落とされるかも」
「すみませんっ! 今、向かいます」
ああ、やっぱり事件発生か。まさに夢のお告げ通り。
小走りでらデカ長のデスクに向かった。
「ぼやぼやするなっ! 三課から応援要請きたから、俺と出るぞ。コンビニ強盗が、立て続けに起こったそうだ。ローラー作戦で、しらみ潰しに行くからって。すぐに準備しろ、バカ水野」
「分かりました。すぐに出れますよ、デカ長」
俺がいつも通りの返答してるのに、
「……何だろう。すごぉくイヤな予感がするわ。水野、ヘマしたら承知しないぞ!」
「分かってますよ。心配性だな、デカ長は……」
笑ってる俺に、心底イヤそうな顔をする。
夢のお告げがあったから、尚更気持ちを引き締めて、現場に足を運んだ。
どんな凶悪事件よりも難解な、恋の事件に巻き込まれるなんて、思いもよらずに――
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