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俺は持っていた紐を、強盗の手首に巻いていった。
「捕まって良かったです……って、どうして手錠しないんですか?」
「俺、三課の刑事じゃなく、一課の刑事だから。応援要請あって、ヘルプに出てただけだしね」
「へぇ、自分の手柄にしないんですか。何か、勿体ない感じしますけど」
「手柄が欲しくて、犯人を検挙してるわけじゃないから。世の中、平和であってほしいなぁと思っている傍ら、その実ギブアンドテイクな世界なんだよ高校生。こっちも人手が欲しいときは、応援要請するから」
「いろいろ……あるんですね」
感心しながら、俺の作業を見つめる眼差しに、思わず手元が危うくなる。
いかん、いかん! 俺は今、めっちゃ刑事なんだぞ。
「ところで高校生、こんな時間に外をブラブラしているのは、どうしてかなぁ? 名前、教えてくれる?」
無理矢理刑事モードに変換して、職務質問をかける話し方で対応した。
「私立校三年の矢野 翼です。塾の帰り道に、強盗に遭遇しちゃいました……です」
「翼君か、三年生なら今が辛いときだねぇ。受験勉強、大変でしょ?」
「はぁ、そうですね……」
何となくしょんぼりする顔を、まじまじと見て気がついた。
「突然だけど、目つき悪いね。目が悪いの?」
「はい?」
俺の突飛な質問に、眉間へシワを寄せる。
「一応、視力両方とも1.5あるんで、目は悪くないです」
「ふむ、良いね」
俺は腕組みしながら、翼くんの頭から足の先まで、くまなくチェックした。
そしてさっきのように、ポンポン肩を叩いた。
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