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「ツン、合格おめでとう。良かったね、一時は、どうなることかと思ったんだよ」
頑張り過ぎた翼は、試験の一週間前に風邪を引いて、寝込んでしまったのだ。
合格の知らせを職場のデスクで、胸を熱くして聞いていた。。喜んでる俺の姿を見て、デカ長が右手親指を立てて、首を傾げてくる。
俺は満面の笑みで、同じように親指を立ててみせた。
それを見て、デカ長は微笑みながら首を上下に振ったので、合格が伝わったことを理解した途端――
「えっ!? 自宅のお祝いに、俺が行っていいの?」
突然のお誘いに、スマホを持つ手が震えてしまった。翼父と対面するのは緊張してしまうけど、お祝いなら仕方ない。
「分かった。仕事終わったら、メールするね」
そう言って電話を切ろうとしたとき、翼が思わぬお願いを口にする。
『警察学校の寮に入る前に、山上のお墓に行きたい』
「翼――?」
『水野はイヤかもしんないけど俺、一度行ってみたいって、ずっと考えてたんだ。悪いけど、案内してくれないか?』
「そう、分かった。今度の日曜でいいかな。ちょうど祥月命日なんだ……」
俺はデスクに視線を落とし、立てかけてあるカレンダーに、そっと目をやった。お墓参りをしようと、休暇を取っていたのもある。ちょうどいいといえば、いいのだが――
『ああ。詳しい打ち合わせは、今夜ウチに来た時にでもしようぜ。じゃあな』
いつも通り、艶のあるバリトンボイスで告げ、プツリと切られるライン。
電話だから……耳元で告げられたから、余計に残っている。山上のお墓に行きたい。の台詞。一体、どうしたというのだろうか?
不安になった俺は、お祝いをした翼の家で問いかけても、お墓参りの前日に泊まりに来た俺の家でも、何も話はしてくれなかった。
変なトコに、頑固なんだから。まったく、もう――
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