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目を閉じて合掌をしていると、
「山上、あのさ」
お墓に向かって、翼が話しかける。俺は真剣な横顔を、そっと見つめた。
「水野ってエロいのな」
何を言い出すのかと思ったら、このコってば!
「ちょっ、何お墓に向かって、ハズカシイこと言ってんだよ」
「今更照れるな、事実だろ」
しらっと真顔で言いきる翼。俺は激しく赤面したまま、固まってしまった。
昨晩初めて、夜を共にした。求める俺に翼は、しっかりと応えてくれたのだけれど……
実際は、そう思っていたなんて――
「山上だって知ってるよな。そんなこと」
「ちょっ、そんなくだらないことを言うために、ここに来たのかい?」
ジロリと翼を睨んだ。赤面したままだから、効果は薄いだろうけど。
「俺は山上に、お礼とお願いに来たんだ」
「お礼とお願い?」
その不思議な言葉に、首を傾げるしかない。
そんな俺をしっかり無視して、お墓に向き直り、姿勢を正す翼。
「山上、アンタが死んでくれたお蔭で、水野と出会うことができた。ありがとう、感謝する」
「…………」
「悪いが俺が生きている間は、水野を独占させてもらうから。ま、アンタはすっげぇ、イヤだろうけどさ」
「翼……」
「この先、何があるか分からないけど、アンタの代わりに全力で、水野を守るから。だから頼みがあるんだ」
そして頭を、ペコリと下げた。
「水野が死んだとき、ハゲててデブでどうしようもないオヤジになっていても、水野を迎えに来てやってほしいんだ」
「ちょっと、何それ……」
翼のお願いに、目頭がじわりと熱くなった。
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