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俺としては格好良く、お墓を去ったつもりだったのに――
「水野お前、鼻の下がテカってんぞ」
笑いを堪えた翼が、すっとポケットティシュを差し出してくれた。
「そうなんだ。ありがと……」
慌ててティッシュを取り出し、鼻をふきふきした。
「山上の墓の前で鼻の下光らせて、真剣に拝むお前の姿、すっげぇ最高だった。笑いを堪えるの、かなり苦労した……」
そう言って、大笑いを始めた翼をジロリと睨んだ。
泣いたらいろんなモノが出るんだよ。てか、笑い過ぎだろ!?
ブーたれて立ち止った俺に、翼は手を差し出してくる。
「可愛い顔して、怒ってんじゃねぇよ。ほら、行くぞ政隆。いや……マサ!」
その呼び名に、顔を引きつらせるしかない。せっかく名前で呼んだのに、何故に改名するかな。
「何だよ、その顔。お前だって俺のことを、ツンって呼ぶじゃないか。おあいこだろ?」
――おあいこなのか、そうなのか!?
腑に落ちない顔をした俺に、優しく微笑む翼。その魅惑的な笑みに、正直メロメロです。
「まったく……エッチするときは、ちゃんと名前呼んでやるから。来いよマサ」
艶のあるバリトンボイスでそう言われると、文句すら言えなくなる。
「ちゃんと、呼んでよね……」
念押ししながら差し出された翼の手をしぶしぶ取ると、グイッと引き寄せられて、チュッとキスをされた。
「ああ、約束な」
耳元で告げられる約束に、俺の胸が高鳴ってしまう。
照れながら顔を上げると、同じように照れた翼が俺を見ていて。そんな小さいことだけど、すごく幸せで……
小さい幸せの傍に好きな人が――翼がいるから、幸せもきっと二倍になるのかな。
頬笑みを絶やさず(ツンツンしてることも多いけど)俺の傍にいてくれる君がいるから……俺も笑っていられる。
――ふたりで、しあわせになるために――
おしまい
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