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自慢げに言いながら、デジカメを手渡してくれた。――どれどれ。
水野が着ている桜色のワイシャツは、僕が以前プレゼントしたもので、白い肌が一層艶っぽく見えた。顔はふてくされているものの、口角が上がっていて、どことなく嬉しさを隠しきれないような感じだ。
そんな水野を呆れながら見つめる自分の顔も、やはり嬉しそうに見える。
「ミズノンが来てから山上、いい表情するようになったよな。前はお前の兄貴と、同じような雰囲気だったのにさ。そういやあの人、最近顔を見せなくなったけど、警察庁の仕事が忙しくなったのか?」
「――ああ。こっちに来るなと、ちょっとだけ脅しをかけてるんです。大事な水野に危害を加えられたら、たまったもんじゃないですから」
有り難うございますと一言付け加え、デジカメを返した。
「脅しをかけるなら、最初からしておけよ。俺あの人の尋問に、何度キレかけたことか……」
「すみません。バカ兄貴なんで警察庁の仕事がなくて、暇つぶしに来てるんですよ。それよりも上田さんが撮った写真、すごくいいですね」
「だろ、だろう? 逃げないで撮られてたら俺の腕前が、もっと早く分かったのによ」
嬉しそうにガッツポーズをする姿に、思わず笑い出してしまった。
「僕の写真キライは、無理矢理撮らされていた家族写真のせいなんです。地位や名誉しか興味のない父親に、実の息子を溺愛する母親、バカ兄貴と妾の子の僕という、ちぐはぐな家族写真――どんなに腕のいいカメラマンに撮られたとしても、納得のいく写真が出来るわけがないんですよ」
「あ~、坊っちゃんち、複雑だったもんな」
「自分のことを理解している人に、撮られたせいなのか……素直に、いい写真だって思えました。もう一枚、撮ってもらっていいですか?」
「マジで!? 被写体がいいと、俄然やる気が出ちゃうぞ俺」
いつも飲み会にカメラを持ち歩き、仲間の写真をばしばし撮っていた上田さん。写真キライの僕は理由をつけて誤魔化し、逃げまくっていたので嬉しかったのだろう。
デジカメの設定まで、弄り始めてるし(笑)
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