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いい写真を撮ってもらうべく、テーブルに置かれている物を手早く横に避け、ネクタイを絞め直して上着を羽織った。
「これから五年おきに、上田さんに撮ってもらおっと」
「何だそりゃ、免許の更新かよ。こっちは準備OKだぜ」
こちらに向かって一眼レフを構える上田さんに、にっこりと微笑んでみせる。
「もうその顔、はいチーズがいらねぇな。撮すぞ!」
次の瞬間、フラッシュが焚かれた。
「僕が殉職したとき、葬儀屋に写真の提出をお願いしていいですか?」
手渡されたデジカメを見ながら言うと、はぁ!? っと素っ頓狂な声で返事をする。
「家族写真から使われるより、絶対にこっちの方がいい」
「殉職ってお前なぁ……。そんな不気味なことを考えるなよ」
「だって、刑事になって考えないですか? 撃たれて死ぬか刺されて死ぬのか、爆死は一瞬だからいいかな、なーんていう結末を」
殴打されて死ぬのはイヤだなぁと、ややふざけ気味に言ってデジカメを返したら、撮した画像を改めて見ながら、
「ダメだぞ坊ちゃん、簡単に死んじゃ。ミズノンが泣いちまう。こんなに、いい顔してるんだし勿体ない!」
なんていう説得力の欠ける言葉を、次々と口にしてくれた。こんな風に気を遣ってくれるのはありがたいことなれど、どんな態度をしていいか分からない。素直に喜んで、いいのだろうか。
「大丈夫、まだ死にませんって。水野の躾を、しっかりしないといけないですから」
苦笑いしながら、熱燗を一口呑んで深いため息をつく。
水野との付き合いが順調すぎて、時々不安に苛まれていた。好きになって、のめり込めばのめり込むほど、僕の前を去っていったヤツらと同じように、水野も自分の元から消えてしまうんじゃないか、と――
愛を求めると、求めた以上にたくさんのキレイな愛をくれる水野。それを自分の中に取り込み、そして水野に返す。
だけど返そうとした僕の愛は、残念ながら水野と違って濁っていた。濁り過ぎて返すことが出来ず、ときとして水野が見えなくなる。あるいは、返す前に僕の中で蒸発してなくなり結局、求めることばかりをしてしまう。
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