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もしかしたら水野に、無理をさせているのかもしれない――
「もう坊ちゃん、暗いことを考えるなよ。ほれ一献」
僕の様子に気を遣った上田さんが、わざわざ酌をしてくれる。
「有り難うございます」
注がれた熱燗に一口つけてから、上田さんに酌をした。
「悩みがあるなら、相談にのるぞ? 遠慮なく言ってみ」
カメラの一件で今までわだかまりがあった上田さんが、急に親身になる姿に正直、戸惑いもあったが思いきって訊ねてみた。
「失いたくないくらい好きになったヤツが、離れていかない方法って、何ですかね?」
「お~、恋愛相談。好きになったヤツは、みんな失いたくないもんだろ、普通さ」
「そうですね……」
「まずは、一緒にいる環境を良くすることだな。居心地がいいと、必然的に傍にいる機会が増える」
両手をバンバンとテーブルに打ち付け、なぜか熱く語る。その様子に落ち込んでいた気持ちが、自然と浮上した。
「あとは束縛しないで適度な放置。これは結構効くんだぜ」
「放置なのに、ですか?」
「ああ。放置することによって、向こうの不安を煽るんだよ。刑事の仕事してたら、勝手に放置プレィになるけどな」
適度を忘れると自然消滅するから気をつけろ。と苦笑いして、熱燗を美味しそうに呑む。その姿につられて、熱燗を口にした。
「やっぱ経験者の話は、説得力がありますね。有り難うございます」
「いやいや、ハハハ。頑張れよ!」
嬉しそうに言ってデジカメ片手に、颯爽と上田さんが席を外した。
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