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「江藤……ごめん、な」
そう言って補佐は少しだけ私の方に体を寄せると、手を伸ばして私の手を掴んで拳を開かせた。
折角補佐から置いた距離も、呆気なく縮められて私は止めていた涙が零れそうになる。
うっと言うのを堪えながら、補佐に握られた手を睨むように見つめた。
「手、痛めるから。握りこむな」
私の手を引き寄せると、補佐の右手に繋がれた私の左手がキュッと包まれる。
大きな手が私を包んで、温かくてその温かさが余計に涙を誘った。
「痛みを与えるなら、俺にしろ」
どうしてなんだろう。
この人のこういうところが、カッコよくて……また好きになる。
いっそ嫌いになれたらいいのに。
さっきの話で、思い切り幻滅してしまえばいいのに。
そうさせてくれないこの人が、好きすぎて嫌いだ。
それなのに握りしめられた手が解けなくて、そんな自分が情けない。
情けないけれど、私はやっぱりこの人に恋をするしかないのかって、そんな風に想ってばかりだった。
「じゃあ、補佐の手を潰すくらい握りますね」
泣きそうな顔を無理やり歪めて笑いながら言うと、補佐は温かみのある笑い声をあげて「いいよ、江藤なら」なんて言った。
その言い方があまりにも優しくて、私は流れ落ちそうな涙を止めるのが辛い。
「続き、どうぞ」
泣きそうなのを誤魔化すように補佐の言葉を受け流すと、それを気にも留めずまた過去の話が再開された。
「あぁ、そうだな」
言葉を紡ぎながら、ぎゅっと手に力を込められる。
それだけで、温もりはより一層近くなった。
けれどそれに反比例して、心の距離は遠くなっていくような、そんな気持ちに蝕まれ始めた。
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