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そんな私の表情に耐えかねてか、もうこちらを見てもくれなくなった補佐は、窓から外を見ながらひとりごとのように語り始めた。
「1回目の公演の後、実際にスカウトされて芸能界入りした先輩がいたせいで、また俺がやるって言ったらすごい人数が集まった。1回目同様に俺に取り入ろうとした人間は男女問わずにチラホラ現れた。
それに都合よく便乗した俺は、女性からの誘いも断ることなく受けた。永遠がそのうち分かるんじゃないかと思って、馬鹿みたいにいろんな奴と関係を持ってみた」
声が出なくて、それでも補佐を見つめるのを止められなくて、ただじっと横顔を見つめた。
その横顔からは表情が読み取れなくて、私は苦しくなる。
ますます遠い人になったみたいで、私の手が届かない気がして仕方がない。
「そんな俺を見かねた長井と、安西……今は長井の嫁なんだけど。二人がピュアな中学生にでも触れた方が、お前のその歪んだ心を治してくれんじゃないかって言い出して。それで4回生の夏、あの合宿に行ったんだ」
「あの時の――」
「それで、お前に言われて。探さない方がいいこともあるって言われて、目から鱗だった。もっぷちゃんにそう言われた俺はそれでやっと目が覚めた。止めたんだ、つまらない付き合いを重ねることを」
そう言って笑って、ようやく私を見つめてくれた。
その顔は今日一番穏やかで、すっきりしている。
「お前に感謝してるよ、江藤。でも」
「待って。待ってください。もう、聞きたくない」
今日2度目の拒絶を伝えて私は立ち上がると、両手で補佐の口を塞いだ。
お前とは付き合えない、にしろ他の言葉にしろ。
もうあなたから――拒絶の言葉は聞きたくない。
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