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睨みつけるように見上げる私に、補佐は観念したように目じりを下げると、ゆっくりと私の両手を掴んで、下に降ろした。
口を開かない二人の間には、沈黙がただ流れるばかりで、それでも黙ってただ見つめあっていた。
1分かもしれないし、10分だったかもしれない。
ただ見つめあって、その心の内を必死で覗こうとお互いが考えているのが分かる。
でも、言葉にしないのに伝わるモノなんて何もなくて……
私の気持ちも補佐の想いも、まるで交わることが無いように感じた。
先に視線を逸らした補佐は、まるで自分自身を汚いものだとでも断罪するかのようにハッキリと私に告げた。
「軽蔑したらいい」
そんなことをきっぱりとすがすがしい顔で言われて、やるせない気持ちと、少し湧き上がる腹立たしい気持ちとでいっぱいになった。
後からモヤモヤが広がって、言葉にならない。
でも、それでもはっきりと言えることがある。
「私は……補佐が好きです。ただそれだけですから」
そう言い切って補佐を睨むように見上げる。
好きな人を睨みつけてどうするんだって思うのに、気持ちがごちゃごちゃしすぎていて上手くそれを表現できない。
「泊まらせるようなことをして悪かったな」
言いながら補佐の手が伸びてきて、頭か肩か分からないけれど私に触れる気がして……その手を掴んで避ける。
好きだけど――今はまだ、全てを受け止められそうになかった。
「帰ります。長居してすみませんでした」
掴んだ手を離すと、ぺこりと頭を下げて補佐の顔も見ずに荷物を掴み、補佐の家を飛び出した。
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