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「まだ泣いてるー、萌優ったらー」
グラスをテーブルに置いて私の傍に来た真子。
そう言いながら、ワシャワシャと私の頭を撫でる。
二人の手の重さを感じる頭に私はまた一筋涙が零れたけど、心の中はほわんと温かい。
「大好き二人とも!」
アイマスクを取ると、こらえきれずに笑顔で二人に抱き着いた。
一頻り泣いたら今度こそ本当にすっきりしたみたいだ。
そうしたら、二人が居てくれるのに泣いてなんていられないと思った。
二人が持ってきてくれたお酒の缶を勝手に漁って取り出すと、一番にプルタブを引いて缶を開けた。
「乾杯!!」
ニコリと笑うと、ぬけがけ禁止! って二人に怒られて、笑いながら女子3人の宴会が始まった。
「そう言えば、トキ兄は体調はどうなの?」
――そうだ。そう言えば補佐って『体調悪くて倒れた』ことにしたんだっけ。
尋ねられて思い出したことにハッとして顔を上げた。
すっかり忘れきっていた昨日の出来事が、随分昔の過去のことのように思える。
けれど考えてみれば、まだあれから24時間も経っていないんだ。
「大丈夫ですよ。朝もしっかり卵粥食べてましたから」
「へぇ……おかゆ、ねぇ?」
ニヤニヤ笑いながら相槌を打つ先輩。
その含みある感じが恥ずかしくて私は手にした缶の中身を、ぐいっと口にした。
「病人なんで、ちょっと作っただけですよっ」
他人から指摘されると、どうにも恥ずかしくて私は頬が赤くなったけれど、それは多分お酒のせいだと自分に言い訳して、また一口ぐびりと飲んだ。
「そっか。まぁいいけどさ……で、何があったかは聞いていいの?」
無言のままの真子と。
探るような瞳でそう尋ねる八重子先輩。
その二人の瞳に狼狽える私は――言いたい、何もかもと思ってしまう反面。
絶対に言えない補佐の……トキ兄の過去に葛藤する。
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