275人が本棚に入れています
本棚に追加
二人の瞳から逃れるように俯く私に、八重子先輩はポテトチップスに手を伸ばしながら教えてくれた。
「トキ兄からね、連絡あったんだよね。萌優が多分泣いてるから、会いに行ってくれって」
「え……」
八重子先輩の言葉に驚きすぎて、声が出ない。
――今先輩が言ったことは、本当?
「心配してたよ、すごく。俺の前で泣くような奴じゃないから、行ってやってくれって。ほーんと男って馬鹿じゃないの? とか思ったんだけど。萌優が心配だから来ちゃったのよ」
補佐が、八重子さんにそう言ったの?
でも……どうして、そんなことするんだろう。
どうしてそんな、妙に優しいことするの?
「どして……」
「ん?」
「嫌いにならせてくれないんですかね?」
私は顔をまた歪めて、手で覆った。
ただ、また泣きたくはなくて、目をぐっと手の平で押さえる。
もうこれ以上、補佐のことで心を乱されたくないって思う気持ちがある。
でも勝手に乱されていくんだ。
その度にグッと我慢するのに、涙腺が弱いのかすぐに涙が込み上げてきてしまう。
「大事なんだよ、萌優のこと」
真子がそう言って私の肩を抱き寄せてくれた。
「私、振られたのに?」
喉が引きつりそうになりながらもそう言うと、真子が背をさすりながら温かい声で教えてくれる。
「大事なことと、付き合うかどうかってのは別じゃない」
「じゃあ、私が、部下、だから?」
泣きたくなくて一言一言をゆっくり口にする。
そんな私に合わせるように、真子もゆっくりと言葉を紡いでくれた。
「それもあるかもだけど……多分、それだけじゃないと思うよ私は。だってさ……トキ兄、昔から萌優にはちょっと違うじゃない?」
「昔から、違う?」
真子の言う意味がよく分からなくて、私はぐすっと鼻を鳴らしながら真子を見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!