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「……はぁい」
渋々頷くと、八重子さんは私の肩をポンポンと叩いてからお構いなしに話し始めた。
「いや、昨日海人に聞いたんだけどね」
そう切り出した八重子先輩に、お酒の勢いでテンションの上がってしまっている真子が私よりも先に、話の本筋と無関係な部分に食いついた。
「ちょ、八重子先輩あの後海人さんと一緒だったんですか!? なんかやぁらしぃいいっ」
「真子ぉ? アンタだって真田と帰ってったでしょうがっ」
「うちはいいんですー。もう長いですから」
「はぁ? そんな逃げが通用すると思ってんの? じっくりあの後ナニしたのか追及してもいいのよ?」
「ちょ、な、何もないですってばー」
……おいおい。
酔っ払い二人め。
振られて落ち込む私を余所に、惚気か!?
わざとなのか!?
しかも話の腰を折りまくってまでノロケるのか!?
落ち込むどころか、怒りがフツフツと湧き始めた私は、目の前の二人をじと目で睨みながらハイボールに手を出した。
じとーー……
睨むこと10秒。
「先輩っ。萌優、もゆっ」
小さい声で私を指さした真子が先輩と目を合わせてから、わざとらしく驚いた表情を見せた。
「んんっ。で、話を続けるわね」
これまたワザとらしく、オホンなんて言って話し始めた先輩。
女の友情って……とちょっと突っ込みそうになる。
「で、海人が昨日ちょこっとだけ長井さんとトキ兄と3人で話してたらしいんだけどね」
真面目に話をするモードに戻った先輩をようやく睨むのを止めて、私は背筋を伸ばした。
私の気持ちを解すためにあんな芝居を二人でしたのか? いや、あれは素だよね? ……なんて思いながら。
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