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だけど、そんなことでは何も解決しない。
手に持ったカップをテーブルに置くと、コトって音がした後に補佐が少し動く音がした。
「江藤……話、してもいいか?」
隣の補佐からようやく声が聞こえて、またシンと鎮まる部屋の中。
もしかして、昨日の待っててくれって言ったことを忘れてるのかなと思っていた。
でもそうじゃなかったことにやっぱり不安が襲ってきた。
ゆっくりと息を吸ってから覚悟を決めて、はい、と静かに返事をした。
「どこから話そうか……そうだな。俺と長井は上中出身なんだけど、知ってるか?」
「そうなんですか。あ、だから八重子先輩のことはよく知ってるんですね」
「そう。と言っても、釜田は卒業後に入ってきたから、俺はOBとしてしか面識ないけどな」
正直、そんな話を始められるとも思ってなかった私は面食らったけれど、突然重い話から始まったわけでもないことに一瞬安堵した。
でも、それはほんの少し与えられた前置きに過ぎなかった。
「長井と盛り上がって、気づいたら演劇部に入ることになってた。それであの夏季合宿で恵(めぐみ)と……木橋恵と出会った」
木橋。
それは昨日長井さんから教えられた人物と同じ名前だ。
予想はしていたけれど、それがやはり女性だということが分かって胸がズキリと痛む。
「恵は、下中出身でなぜか目立つ女だった。1年目は長井と同じグループで俺とはそこまでの接点もなかったけれど、2年で同じグループになって、馬が合った。いつまで話しても飽きなくて、多分俺は……そのころから、アイツが好きだったんだと思う」
ぐさりと刺さる、好きだった、って言葉。
私じゃない女性が好きだった話を聞かされて、耳が痛い。
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