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でも、聞くと決めた私はギュッと膝頭で拳を握りしめて耳を補佐の口から出てくる言葉に傾けた。
「でも合宿が終わればほかの学校の奴とは会うこともない。なんとなく芽生えた想いはあるのに、俺が次に会ったのは、中学3年の夏季合宿の時だった」
補佐はそう言って、一口コーヒーを飲むとゆっくり呼吸をしてからまた話を続けた。
「久しぶりに会って、テンションが上がってすごく二人の仲が近づいた感じがあった。今思えばそのころ俺とアイツが一番心が通ってたんだと思う」
ただ淡々と、思い出話を語るように話す補佐。
それでも端々に出てくる彼女への想いが見え隠れして、それが痛い。
唇を噛みしめそうになるのを耐えるように、何度も下唇を噛んではそれを意識して止めた。
「3年だから自然に受験の話にもなって、高校は一緒かもしれないなって笑った。そんな楽しかった3日間は終わって、俺はまたアイツに会うことがなくなった。そして高校の入学式で――結局、彼女と会うことはなかったんだ」
「どうして、ですか?」
「受験日の当日に高熱が出て試験が受けられなかったんだ。それで私立の女子高に行ったらしい。馬鹿な奴だろ?」
馬鹿な奴と言いながらも、その声が優しくて私は訳もなく涙が出そうになる。
もう、聞きたくない。
何も始まってないのかもしれないけれど、もう私は後悔し始めていた。
補佐の口から女性の名前なんて、聞きたくない。
だから……ぎゅっと目を瞑って、俯いたまま私は思わず口を開いてしまった。
「補佐……もう、聞きたくないです」
ぎゅうっとズボンを握りしめて、何度も止めていたけれど、止めきれずに唇を噛んだ。
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