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もう勘弁してほしい。
このまま話が続けば、確実に彼女が好きだと言う言葉を聞かされて、また振られるんだと思ったら怖かった。
出来れば隣に居たかった。
でも叶わないなら。
せめて想うだけでもいいんだ。
だけど、このままじゃ想うことすら叶わなくなってしまう。
そう思ったら怖くて、そんな言葉が口をついて出てしまった。
だけど補佐は私を逃してはくれないらしい。
「悪いな江藤。でも聞いてくれないか?」
寂しそうにそう漏らす補佐の声が震えていて、私は泣きたい気持ちを必死で我慢した。
どうして……どうして私はこんなにもこの人が好きになっていたんだろう。
自分でも酷いことをされているという自覚があるのに、それでも補佐の申し出を断れなくて涙を呑んで頷いた。
「――分かり、ました」
補佐の体重で少しだけ補佐の方に沈み込む体を立て直したくて、私はさらに距離をとって浅く腰を掛け直す。
これ以上、近づくのが、辛い――
だから身体的距離だけでも置きたかった。
そんな私を知ってか知らずか分からないけれど……補佐は変わらずに続けた。
「中学の時の小さな気持ちは、会わないうちに薄れて、俺の中では全くの過去になってた」
小さな気持ち。
その言葉にまたズキリと胸が痛む。
今もなおそのころの気持ちを引きずっている張本人こそ、この私だ。
その私の想いすらも小さいものと言われた気がして、突き刺さる。
「過去になっていたのに……再会したんだ、大学で」
「大学?」
「一緒だったんだ。芸大の舞台芸術学科」
「は……」
演劇馬鹿だとは思っていたけど、まさか本当にそっちの方に行ってたとは思わなくて、私は驚きのあまり固まった。
そんな私を見た補佐は苦笑いを浮かべる。
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