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「ごめんなさい。優の連絡先を教える事はできません」
気付けばそう言っていた。
「どうして……」
「なんで優が出ていったのか、理由がちゃんと知りたいからです。
私が優と話して、優から連絡を入れるようにいいます」
勝手に優の連絡先を教える事なんて、出来なかった。
「優は俺の大切な弟でもあります。だから、勝手に連絡先を教えるなんて出来ません」
これは、今まで優に連絡をとらせて貰えなかった、黒木さんへの復讐の意味も、少しはあったのかもしれない。
心の何処かで、自分がどれだけ苦しかったか、知って欲しかったのかもしれない。
でも、それよりも強く、シンは優を守りたかった。
今まで出来なかった分。
「貴方の気持ちも分かるわ。でも、優は私達の家族なの」
「……」
胸が苦しくなった。
『私達の家族』優には帰れる場所がある。
でも、俺に帰れる場所は……。
……。
「ごめんなさい。仕事に戻らないといけないので……優の事は任せてください。
必ず電話させますから」
「ちょっ――」
シンは強制的に電話をきっていた。
なんだろうこの喪失感は……。
携帯を握る手が、ダランと下に垂れた。
結局、黒木さんの優に対する気持ちを聞けただけで、何が原因でこうなったのかは、聞けないまま。
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