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――時計の秒針の音が、広い自室に響いている。
重く苦しい胸の塊を取ろうと、今日細川を家に呼び、パァーと遊びに出掛けようと思っていたが、彼は行けるような状態ではなかった。
青ざめた顔に、あの沈んだ様子。彼はそのまま帰って行ってしまった。
桜井はベッドに寝そべりながら、自分のこの胸の苦しみをどう打ち消そうかと考えていた。
もうすぐ……大切だった人の命日。その日が近付くに連れて、毎年のように、胸が苦しくなる。
彼女と別れて7年目。まだ彼女は、桜井の胸の中で生き続けていた。
コンコン。
静寂を破ったのは、乾いたノック音。
「サク坊っちゃま。真奈美様がお見えです」
この家に30年近く仕えている、50代後半の執事が、扉の向こうから呼び掛けた。
「今日は会いたくない……」
「ですが「藤岡! 俺に意見するなよ。帰らせろ」
「かしこまりました」
そして、遠くなっていく足音が消えると、また部屋は静かになった。
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