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静かな車内、亜紀は今も唇を噛み締めている。
「亜紀……黙っててごめんな」
「……」
「亜紀? 大丈夫か?」
「なんで隠してたんですか?」
やっと喋った亜紀。
「隠していた理由か……それは、俺の意志が弱かったからかな……」
思わず苦笑いしていた。
「俺な、亜紀の父さんに会って“今は離れていて欲しい”と言われるまで、甘く考えてたんだよな……。
近くにいる亜紀に、まだ触れられる。会えるって思っていた」
静かな車内にシンの声だけが聞こえる。
「自分に甘い俺は、きっと、今日だけ今だけと言って。亜紀に会いに行っていたと思う」
自分の意志の弱さ、きっと今の距離がなかったら、突き放してなかったら、確実に会いに行っていた。
抱き締めていた。
「亜紀の父親は、俺と亜紀の関係を知っても、突き放したりしなかった」
近くの公園の駐車場に車を停めた。
「普通なら、生徒に手を出すなって、怒るだろ?
でも、亜紀の父親はそうじゃなかった」
亜紀は黙って、イルカの置物を見ている。
「そんな父親に、亜紀のために今は離れて居て欲しいと言われて。それが、正しい選択なんだと改めて気付かされたんだ。
それで俺は、亜紀に今は近付かないでおこうと強く心に決められた」
今は近付いちゃいけない……それが悲しい現実で、正しい選択。
教師と生徒という関係は、俺達を隔てる壁。
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