*…朧…* #3

9/35
前へ
/35ページ
次へ
 彼女は何がしたかったのか……気持ちを伝えてどうしたかったのか……。  希望が欲しかった? 少しでも期待していたのだろうか。  彼女は頭が良い、こうなる事はきっと分かっていたはずなのに、何故呼び出したりしたんだろう。 「亜紀は幸せですね……先生の気持ちは分かってました。でも、ぶち壊したくて」  微笑んだ彼女は、少し怖かった。 「手に入らないって分かってても、欲しいものってあるじゃないですか。  ちょっとでも、先生に私の事を考えて欲しいから」 「だからこうやって呼んだのか?」 「はい。分かってたんですけど、先生を苛めたくなっちゃって」  舌をペロッと出す彼女は、どんな気持ちなんだろうか。 「参ったな」 「もう言いたい事は言いました。じゃあ失礼します」  シンの横を通り過ぎる時、 「これからも、好きですから」  と呟いた彼女の横顔は、今にも泣きそうだった。  シンは振り返らず、声をかけず、彼女がいなくなるのを待った。 「はぁ……」  なんだか心が苦しくなる。自分のせいで傷ついていると思うと、やりきれなくなる。  でも、これが良い方法だった。早く亜紀に会って癒されたい。  そう思うことで、少し気持ちが安定する。 (亜紀……)  早く抱き締めたいのに。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加