the Comedy show

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★ 「あ、ちょっと待って!チキン買ってなかったわ。」 彼女のこういう所には毎度苛立ちを覚えるが、僕はとりあえず抵抗を試みることにしている。 「はあ?まだ何か買うの? もう疲れたよ。早く帰ろう。」 「だって、貴方がクリスマスにチキンは外せないって言ったんじゃない。」 「いつ言ったよ?そんなこと。」 悪いけど、そんなこと話した覚えはないよ?実際、僕はチキンよりビーフが好きだし。 「ママー、僕おなか空いたー。」 「ごめんね、健太。あと一軒寄ったらすぐに帰るから。 ねえ、貴方ったら!ちょっと待ってよ。好きでしょう?チキン。そう言ってたもの。」 「だから、言ってないよ。」 君、僕の話聞いてる? 「言ったわ、間違いなく。覚えてないの?ほら、三年前香奈んちのクリスマスパーティーに呼ばれた時…」 また始まった。 彼女は思い込みが激しいんだ。 「そんな昔のことなんていちいち覚えてないよ。」 「昔って、三年前の話じゃない。」 僕には十分昔だよ? 「ねえ、ママー?」 「だいたいピザも取るんだろ? いくら何でもそんなに食えないよ。」 「だけど…」 「いつも無駄遣いするなって言うのは君だろう?いいからもう行くよ!」 「やだ、ちょっと待ってよ! ねえ二人とも、待ってー…」 もう、止めた。 幾ら話した所で引くわけないんだ、彼女は。 僕は健太の手を取り、師走の街をずんずん突き進む。 いざとなったら、電話してくるさ。 この街に、一箇所だけのスクランブル交差点。 点滅する歩行者信号を見ながら、健太と二人早足で駆け抜ける。 信号は、赤。 僕と彼女の間を行き交う車と市電が塞ぐ。 いつも、こう。 まるで僕らは、エンドレスのコメディ・ショウだ。 いつからだろう? 見えない何かが邪魔をして、二人の会話はもうずっと噛み合わない。
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