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☆
頭上からはお決まりのクリスマスソング。
夕暮れにはまだ早いのに、灯り始めたイルミネーションの下で、偽物のサンタがケーキはいかがと声を張り上げている。
何だか、一気に興醒め。
自分でもどうして、こんなに躍起になっているのかわからない。
今更昔の二人に戻れる筈もないのに。
確かにもう何度も一緒にクリスマスを過ごしたけれど、だからってあの態度はあんまりだと思う。
きっと、いい歳をしてクリスマスに浮かれてる私に呆れてるんだ。
そう顔に書いてあった。
でも、浮かれて何が悪いんだろう?
クリスマスは一年に一度しかないのよ?
私たちにはもう健太もいるんだし、料理だってプレゼントだって完璧に準備して家族皆で楽しみたいじゃない?
…でも、今年も彼からのプレゼントは無いんだろうな。私はいつも用意してるけど。
何だが、ちょっと虚しい。
この街で、唯一のスクランブル交差点。
彼と健太はもうとっくに渡りきってしまって、姿も見えない。
忙しげに行き交う車や市電が、私の心を塞いでいく。
まるで二人の、噛み合わない心みたい。
絶対的な距離があって、どんなに足掻いても、もう縮まらない。
わかってはいても、往生際の悪い私は、コメディエンヌの様にいつも一人でジタバタ。
信号は、青。
師走の賑やかな街を、私はトボトボ歩き出す。
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