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アーケードがちょうど切れた所で一旦後ろを振り返った。
何処までも続く人の波に、彼女の姿は見当たらない。
何だよ、ホントにチキン買うつもりなのか?
この時季、特にクリスマスイブなんて日は日が暮れる前に街を抜け出さないと、酷い渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなるのに。
肩で大きく息をして、ダウンジャケットのポケットからスマホを取り出す。画面に彼女のナンバーを呼び出したその時だった。
「ねえ、パパぁ、おしっこ!」
「ええ!?今?もうちょっとで駐車場着くけど、ムリ?」
「ムリだよぉ~。パパ、もれる!!」
「わかった!わかったから、ちょっと待って!!」
参った!
この辺りは、やたらと高級そうな店ばかりで、トイレ貸してください!なんて言えないよ。
「ねえパパー、もう我慢できないよー!」
「もうちょっと我慢してくれよ。トイレ貸してくれそうな店なんてここらには無いだろ?」
本気でやばい!健太が地団駄踏み出した。
気ばかり焦る僕はキョロキョロと辺りを見回す。
「パパ、あそこは?」
「ん?」
健太が指差したのは、老舗の中古レコード屋だった。
うん、確かにあそこなら、トイレぐらい快く貸してくれるかも。
「おし!行くぞ、健太。」
「うん!」
僕は健太の小さな手を握り、その店を目指した。
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