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「あ、あった。ここがトイレだ。健太、一人で大丈夫か?」
「大丈夫だよぉ!ぼくもうすぐ一年生だよ?」
「あ、そうだよな。もう一年生だもんな。おし、行ってこい。」
「うん!パパ、ちゃんとここで待っててね。」
以前よりちょっとだけ逞しくなった息子をドアの向こうに見送った。
手持ち無沙汰で、ぐるっと店内を見渡す。
健太は今まで見たこともないんだろうな。洋邦様々なレコードがぎっちりと棚に収まっている。
店内に流れる音楽も、流行りからはだいぶ外れた曲ばかり。
でも僕には、懐かしくて暖かい。
「お、懐かしいなあ、この曲。」
だいぶ前に解散してしまったバンド、
シンバルズのコメディ・ショウ。
年代物のレジスターの向こうに、ボーダーのTシャツに紫色のベレー帽を被ったこれまた年代物の元オリーブ少女が座っていた。
なるほど、あの店員の選択か。
僕は、健太を待つトイレの前、腕を組んで右手の人差し指でリズムを取る。
そういえば、この曲は彼女のお気に入りだったな。
二人ケンカをした後は、いつもどちらかがこの曲をかけて、それが仲直りの合図。
あの頃は、もっと僕らは単純だった。
素直になるのも簡単だった。
ついさっき、人混みに一人取り残された、彼女の泣きそうな顔が不意に浮かぶ…
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