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どうして僕は、彼女を置き去りになんてしたんだろう。
何であんなにイラついてたんだろう。
彼らのレコードを探し当て、ジャケットをぼうっと眺める。
そういや、このCDどこに行ったんだ?
彼女と結婚して、今の家に移ってから見かけてない気がする。
この曲が部屋に流れていた頃は、一緒に居るだけで嬉しかった。
一緒に料理をして、食事して、彼女の好きな恋愛もののDVDを見て、それから朝まで彼女を抱きしめて眠った。
いつからか、あの頃みたいに会話を交わすことも無くなって、そういえば彼女の笑顔をずっと見ていない。
彼女の笑顔が大好きだったのに。
ずっと見ていたくて、側にいるって決めたのに。
僕はあの頃の気持ちを一体どこに置いてきてしまったんだろう?
「…パパ、…ねえ、パパ!!」
「お、おう健太。終わったのか?」
健太に声をかけられて、我に返った。
いつの間にか店内の音楽は、スタンダードなクリスマスナンバーに変わっていた。
「ねえパパ、僕この歌知ってるよ!『サンタが街にやってきた』って言うんだよね?」
「お、健太よく知ってるじゃん。」
ふっと、健太が物憂げな顔になる。
そして、僕を見上げる彼女によく似た大きな瞳…
「ねえパパ、それ買うの?」
健太は僕が手にしていたレコードを指差した。
「いや。…何だ健太、どうかした?」
僕の答えに何故か俯いてしまった健太の肩を抱き、その小さな顔を覗き込む。
「ねえパパ、どうしてさ…」
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