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☆
「ねえ、お風呂溜まったわよ。」
一回目。
「貴方、健太をお風呂に入れてちょうだい!」
二回目。
彼はソファーに寝そべったまま、未だに何の反応もしない。
テレビでは売れないコメディアンが、何とか目立とうとけたたましい笑い声を上げている。
もう、本当に聞こえてないのかしら?
私は大きく息を吸って、グッと下腹に力を入れた。
「貴方!お風呂に入ってったら!!」
「うっるさいなぁ。そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるよ。」
「嘘!ちっとも聞いてないじゃない。声かけたの、これで三回目よ!」
「聞いてたよ、風呂掃除すればいいんだろう?」
「違う!お湯が溜まったから、健太をお風呂に入れてって。」
「わかったよ、もうすぐだから。これが終わったら…、な?」
もうっ!頭が痛い。
どうしていつもこうなのかしら?
何で私の話を聞いてくれないのかしら?
まるで、もう一人大きな子どもがいるみたい。
しかも、健太より彼の方がよっぽどずっと手がかかる。
キッチンのシンクにはクリスマスの残骸達がこれでもかと溢れてる。今からあれを私一人で片付けるのよ?
ソファーに張り付いたままなかなか動こうとしない彼の小刻みに揺れるツリー柄の靴下を見て、私はそっとため息をついた。
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