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彼がついに学生卒業を控えた3月の下旬、私たちは仲間内で箱根へと小旅行に来ていた。
もともとサークルの仲間だが、こうして年に数回、旅行したり飲み会をしたりと関係が続いていることは有り難い。
いつも忙しくしている智徳が集まりに参加するのは久し振りで、会うのはほぼ一年ぶりだ。
「あれ?智徳って就職決まってるんだ?」
「決まってなきゃ来ないでしょ、旅行」
「いやあいつのことだから、またどっか、海外一人旅とか行くのかと思って」
「いやいや、さすがに就職しますよ、俺も。ついに」
「へー。どこ?」
隣の輪で紡がれる会話に半分耳を傾けながら、私は私で目の前に居る友人たちとの会話に花を咲かせる。
智徳と別れたのはもう3年以上も前。智徳が留学から帰ってきた、その夏。
私は社会人1年目で余裕がなく、視野も心も狭かった。
彼が留学していた1年弱の間、連絡手段はほとんどメールで、メール不精な彼からはその返事もほとんど返ってくる事がない。
時々フェイスブックに写真がアップされるのを見て、あぁ今は此処に居るのか、ちゃんと生きてるのか、と知った。
留学している間は、もう諦めていた。
連絡を取り合ったり、どうにかして繋がろうとすることを。
私も仕事に追われて一杯一杯だったし、いちいち色恋沙汰で一喜一憂していられるような状況ではなく。
遠くに居る智徳に対して、期待しないと見切りを付けなければ、到底精神が持ちそうにはなかった。
もちろん目の前の世界に夢中な智徳が私のことを気に掛ける訳もなく、私たちは真実、想いだけで繋がっているような状態だった。
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