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―――ここから、始まったんだな。
いつも、待ち合わせで使っていた場所に着く。
時折、顔を見せていた太陽は、厚い雲に覆われ、すっかり姿を隠していた。
乳白色の雲が湖面に映り、湖と空の境目は消え、真っ白な彼の車も同化する。
―――無色というのは、もしかしたら、こんな色なのかもしれない。
あの頃と同じ様に、隣に停める。
でも。
気持ちは、あの頃とは違っている。
あの純粋に、彼を好きだった頃とは、違う。
ハンドルから手を離し、エンジンを切る。
ドアを開けて、一歩、踏み出そうとしたけど、足が竦(すく)んで動かない。
―――躊躇しているの?
はふっと、溜息を吐き、大きく、息を吸う。
―――拒絶しているの?
もう一度、大きく深呼吸をし、身体の隅々まで、酸素を行き届かせる。
―――行かなきゃ、駄目なんだよ。
そう、自分に言い聞かせ、一歩、踏み出す。
―――進まなきゃ、始まらないんだから。
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