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助手席を開けると、いつもの彼のあの匂いが、わたしを包む。
「移動、しようか?」
「うん、そうね。」
カーステレオからは、初めて、この車に乗った時と同じ曲が流れていた。
彼の、そして、わたしの好きな曲。
でも。
あの時とは、違う二人。
ときめきとは違う、この気持ち。
胸がぎゅうっと締め付けられる。
沈黙のまま、車は、西に向かって走り出す。
お互い、何も言えないまま。
お互い、何も聞けないまま。
太陽は、ずっと、姿を隠している。
枯れている木々が、寂しげに、わたし達を見送っている。
恋を歌う曲だけが、虚しく流れている、車内。
手を繋ぐことも、愛を囁くことも、無い。
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