新たなる出発

7/30
前へ
/844ページ
次へ
助手席を開けると、いつもの彼のあの匂いが、わたしを包む。 「移動、しようか?」 「うん、そうね。」 カーステレオからは、初めて、この車に乗った時と同じ曲が流れていた。 彼の、そして、わたしの好きな曲。 でも。 あの時とは、違う二人。 ときめきとは違う、この気持ち。 胸がぎゅうっと締め付けられる。 沈黙のまま、車は、西に向かって走り出す。 お互い、何も言えないまま。 お互い、何も聞けないまま。 太陽は、ずっと、姿を隠している。 枯れている木々が、寂しげに、わたし達を見送っている。 恋を歌う曲だけが、虚しく流れている、車内。 手を繋ぐことも、愛を囁くことも、無い。
/844ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2599人が本棚に入れています
本棚に追加