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車は、あの時のあの場所に向かって進んでいた。
そう。
初めて、口づけを交わした場所。
流れる景色が、あの頃のわたし達に戻そうとしている。
あの高揚と、胸の昂(たかぶ)りを感じた夜に。
だけど。
この締め付けられる気持ちは、あの時のものとは、性質的に違う。
―――わたしは、告げなければいけないんだ。
黙ったまま、ゆっくり、息を吐く。
運転している彼に気付かれない様に。
ゆっくり、ゆっくり、静かに。
身体に溜まった毒を抜く様に。
―――あなたに、戻ることは無いんだって。
それが、決断。
わたしが、選んだ未来。
今日で、全て、終わりにしなければ。
『平井 紗世子』という人物の物語を、始める為にも。
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