新たなる出発

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コンコン。 助手席の窓を叩く、ヨシ。 ドアを閉めたまま、動けなくなっているわたしを見つめる。 ―――前に、進まなければ。 すうっと息を吸い、ドアを開く。 「出たくない?」 彼が、優しく、聞いてきた。 ううん、と首を横に振り、動くことを躊躇っている足に、力を込める。 一歩。 地面に、足を下ろす。 「ごめん…ね。」 もう一歩。 両足を、大地に着ける。 「車の中の方がいい?」 優しい彼。 「…いえ。外で、話しましょう。」 立ち上がり、外気に身体を晒し、バタンと、車のドアを閉める。 山の上だからなのか、気持ちからくるものなのか、空気が冷たい。 体温が奪われる。
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