寒椿

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毎日飽きもせずに朝起きて仕事に行く前に、安っぽい緑の如雨露を片手に持ち虹を作る。 虹は死者の通り道だと言う伝説がある。 信じている訳ではないけれど、僕は虹に触れて彼女に会いたかったのだ。 勿論、伝説は伝説でしかない。 だけど、なぜか行為を止められずに今日もまた虹を作る為に如雨露を片手に彼女の元へ向かった。 「今日も行くの?」 ドアを開けてすぐ掛けられた声に僕は小さく頷いた。 「悪いか?」 僕は僕が行っている行為についての自覚はある。今の僕は傍目から見れば彼女を失った悲しみで奇妙な行動をしている可哀想な男なのだろう。 だから家族も友人も、目の前の彼女を除けば誰も僕の行動をとめる事はしない。 傷は時間が治してくれる。 それまでは気が済むなら自由にしろ。 そう言う事なのだろう。 だけど、彼女は違う。 「もうやめてよ」 いつからか毎日の様に朝訪れて僕の行為に苦言を呈するのだ。泣きそうな顔で彼女そっくりの声で。 本当はわかっている。 彼女の言う通り、こんな自傷行為はやめるべきなのだ。無意味で無生産で、ただ心の傷が塞がるのを抉って邪魔しているだけの行為はやめた方が自分の為だと。 でも忘れたくない。 いつか時間が経てば心の傷が癒える。 そして新しい恋人に恵まれて。 楽しい生活が始まって。 幸せになって。 彼女への気持ちが風化するのが。 怖い。 忘れたくない。 傷でも何でもいい。 彼女への思いも気持ちも。 失いたくはない。
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