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エレベーターが一階に着き、達也は片手で扉を押さえて私を先に通す。
私たち二人は、手を繋いだまま、外へ向かって歩きだす。
「別に子供じゃないんだから、走って迷子になったりしないわよ。」
カップルでもあるまいし、手を繋いだまま街を歩くなんて、
「子供じゃないなら、俺と大人の付き合いする?」
「し、な、い。」
区切って強調して言う私に達也は、声をあげて笑った。
そのまま手を離す様子の無い達也に仕方ないとあきらめて、手をつないだまま、夜の煌びやかな照明が輝く街を駅に向かって二人歩く。
しばらくぶりだよな…男と手を繋いで歩くなんて。
軽く一年ぶりぐらい?
まあ、相手はこんな男だけど。
「やっぱり、おもしろいな。アンタ。」
背の高い達也とこうやって並んで歩くと、165センチの私は見上げて話すことになる。
私は、なるべく上目遣いにならないよう気をつけて言った。
上目遣いで甘えてるように喋るのは、私は嫌い。
「アンタと呼ぶな。私には中村美香という素敵な名前があるの。」
「みか…美しい香りだったか?」
「そうよ。」
「そうか?」
達也が私に顔を寄せて嗅ぐ仕草をする。
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