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「へぇ…徹底してるわね…。」
私は思わず感心の声を上げてしまった。
巧と待ち合わせをしたのは、例の偶然出合ったあのバーだった。
今日はカウンターではなく、二人でBOX席に座り、巧から話を聞いていたところだった。
「ボクシングに空手にテコンドー、古武道…すごい種類習ってるのね。」
「はい…体の動きを表現するには、経験してみるのが一番で…。」
ボソボソと喋ると巧は、毎度、視線を逸らして、下へ落とす。
「…作家も大変ね。」
巧は向かいの席に座り、Tシャツにジーンズにメガネというラフなスタイル。
その向こうには、仕事帰りできっちりパンツスーツを着た私。
見てる人がいたら、どんな組み合わせだろうと想像を掻き立てられるだろう。
「はい…で、でも、もちろんフィクションの部分もいっぱいあります。ただ、発想のきっかけになればと始めたんですが…体が動くようになると楽しくて…」
「そうよね。うまく型が決まった時なんか、なんともいえない達成感みたいなのがあるもんね。」
「は、はい。達成感です。」
私が同意すると、巧は目をきらきらさせて答える。
達也に比べて、段違いに受け入れられる反応だ。
まあ、恋人には考えられないけど。
弟のように親しむ分には、楽しく付き合えるのかもしれないと思い始めていた。
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