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はあ……
美香は一人暮らしのワンルームのベッドに寝転がり、ため息をついて天井を見つめた。
胸の上には、ため息の原因となった。文庫本が開いたまま乗っている。
そう、巧が書いた本だ。
あの後、なんとか駅を見つけ自宅に向かう途中、通りがかりのブックストアで、平積みされているのが目に入り、気になって買ってしまったのだ。
『もう、いっそ』という感じで、シリーズ最新刊まで大人買い。
読めば読むほど本の主人公『達哉』は、あの『達也』とそっくりで…
非常に複雑な気分になった…
実在する達也が、物語で動いているような錯覚。
本に書かれたセリフが達也の声で聞こえてくる。
その度に…
私に触れた指や唇の熱さや体の感触まで蘇ってきて…
「ああ……もう、考えるのやめ!」
美香はベッドから勢いよく起き上がると冷蔵庫へ向かった。
一人暮らしにしても小さい冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
外食が主の美香の冷蔵庫は、缶ビールと酒のつまみぐらいしか入っていない。
缶ビールを空け、一気にのどに流し込む。
好きなはずのビールが今日はやけに苦く感じた。
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