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ベランダに出て夜空を見上げながら、缶ビールを呷る。
料理が出来ないわけではない。
家族で暮らしている頃には、仕事で忙しい親の変わりに兄弟で家事をしていたため、一通りのことは出来た。
ただ、一人暮らしを始めたときから、それまでの生活の反動と仕事の忙しさを理由にほとんど料理をしなくなった。
男手一つで兄3人と私を育てた父には頭が上がらないが、父自身は私の育て方を間違ったとよく言う。
仕事で帰りの遅い父は、自分が仕事の間に兄弟そろって習い事をさせようと上の男兄弟と同じように私にも武道を習わせた。
そのおかげで、私はそこらへんのチンピラには怯えないぐらいの度胸がついたわけだが…
その私の度胸のよさが父は心配らしい…
案の定、昨日は失敗したわけだが…
いろんな意味で…
私は、考え事をしながら飲み干してしまった缶を握りつぶし、室内へと戻った。
缶を片付けて、私はベッドに放り投げたままだった文庫本を手に取った。
読むか…
せっかくだし…
私は、ベッドに寝転がると読みかけだったページに目を向けた。
『俺の側に来いよ。』
小説の中では『達哉』が、依頼人の女性を優しく慰めるシーンが続いていた。
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