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つかまえて服をとり返さなきゃ。
私は寝室を出る。
「ねぇ。どこ?」
居間を覗いても人影は見当たらず、私は声をかけた。
「あ、起きたんですね。」
なんだ、後ろにいたのか。
でも…『ですね』ってやけに丁寧だな。
そんな事を思いながら振り返った私は、吃驚して固まった。
振り返った先、台所でコンロの側にアイツではなく、弟が立っている。
ボサボサの頭に眼鏡でトレーナーの上下の上からエプロンをかけ、鍋に手をかけている。
「…え、お、弟さん?」
「あ…あ、はい…。」
「仕事で帰らないんじゃ…。」
「あ…朝、か、帰って来ました。」
弟、巧が私を見て恥かしそうに視線を逸らす。
その仕草で自分がバスローブ一枚なのに気づいて慌てて胸元をかき寄せる。
まさか兄と寝た後に弟と出くわすなんて、かなり気まずい。
「タ…お兄さんは…。」
「えっと……タツヤは……。」
「どこなの?」
なんだよ、歯切れが悪いな。
「実は……。」
「…。」
巧はモジモジとして目線を伏せたまま。
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