記憶

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「まあ、簡単にはあきらめませんけどね。」 「そうだな、あんな生きのいい女はなかなかいないぞ。運動不足で立ちくらみさえしなきゃ、俺もお前も出る幕なかっただろ。」 運動不足というより酔いが回ったようだったのだが、確かに万全だったなら、美香一人でチンピラを蹴散らしていたかもしれない。 相手も女だからって油断していたし。 「そうですね。じゃじゃ馬で困ります。」 俺のため息混じりの告白に再び大友さんは笑った。 「いい女じゃないか。お前みたいな仕事してるヤツには、普通の女じゃ物足りないだろ。」 俺が小説家と言うことを知っている大友さんだからこその意見だろうが、酒を届けに来たバーテンがその言葉を聞いて、怪訝そうな顔をしてグラスを置いていった。 「まあ、仕事には関係なく好きですけどね。」 「そうか?」 「プライベートは別ですから。」 「ああ…彼女はお前も巧も知ってるのか?」 大友さんは心配するような複雑そうな顔をした。 大友さんに最初に出会ったのが小説の取材で、巧としてだったため、大友さんは両方を知っているが故に心配してくれているようだ。 「ええ。見抜かれました。」 「ほう。それで?」 「どっちもお前だろって言われましたよ。」 「おお。性格も男前だなその子は。」 「ええ。カッコイイですよ。」 「ますます好みって訳か。」 「まあ、そうですね。」 俺の言葉にニヤリと笑うと大友さんはグラスを持ち上げた。 「達也がその女を落とせますように。乾杯。」 「はは。ありがとうございます。」 グラスを合わせ、二人で微笑みあった。
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