記憶

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-------------------------------- 「何。大友さん楽しそうね。」 二人で話し込んでいると不意に後ろから少し低めの女性の声がした。 振り返ると大友さんを見つめ。長い黒髪でグレーのスーツを着た美人が赤い唇でにっこりと笑っていた。 「…山田…。」 大友さんが苦虫を噛み潰したような顔で女を見ている。 「大友さん、こちらの方、ご紹介してもらえる?」 カウンターに腰掛けた大友側へ立って、俺に微笑みかける。 大友さんの関係性を測りかねて、俺は自分から挨拶せず、大友さんの反応を伺った。 「ああ、こいつ前の取材に来たヤツだよ。速水。」 「どうも初めまして。フリーライターの速水です。」 大友さんの紹介の仕方で大友さんの同僚だとわかり、俺は警戒を解いた。 「ああ、貴方がそうでしたか。お会いするのははじめてですね。山田警備の山田太郎です。どうぞよろしく。」 相手は本来の声なのだろう先ほどよりも低い声で男口調になって言った。 俺は、驚きに言葉が出なかった。 山田太郎とは…大友さんの会社の社長の名前だった。 以前、出版社を通じて取材申し込みをした時に山田警備の社長とは電話で話したが、やり手の男性と言う印象だったのだ。 目の前の女性と結びつかない…。 言葉を無くした俺の反応を見て大友さんがため息をつく。 「…こちらこそ、その節はお世話になりました…。」 衝撃をやり過ごして俺はやっと礼を言う。
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