記憶

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まったく… どうせ、営業でもかける気なんだろ…。 「すまんな。」 「もう、そんなつれないトコがたまんないのよね。達也は。」 ことさら甘えた声で言って、明らかに男の気を引くように計算しながら、女はしなだれかかり微笑む。 「…悪いな。」 「いや、絶対駄目。」 駄々をこねる様に頭を振る女に頭痛がする。 通行人が面白いものでも見たような顔をして、横を通っていく。 「離れろよ。」 「いや、連絡先教えてくれるまで離れない。」 言うや女は腕を腰に回して本格的に抱きついてきた。 美香とは違う甘ったるい香水の香りに咽る。 「しつこいんだよ。」 堪忍袋の切れた俺は腕を捕まえて体から離す。 「なによ。私がこんなに誘ってるのに。」 「…迷惑なんだよ。」 睨みを利かせて言うと女は怯えて黙ったが、悔しそうな顔を隠さない。 自分から誘ったのに断られるなど、思いもしなかったのだろう。 そこまで、いい女でもないくせに思い上がったものだ。 まったく、付き合ってられん。 手を振り払おうとした俺の耳に信じられない声が響いた。
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