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午後で客足の途切れた店内で、商談用の机に座っていた私の目の前にコーヒーが置かれた。
「どうした。なんか今日はのらないみたいだな。座ってるだけじゃ、客はつかめないぞ。」
同期の斉藤がそう言いながら横に腰を降ろした。
「あ、ありがと。…そう?」
「ああ、説明にも身が入っていない感じだったぞ。先月うまくいったからって、余裕かましてるんじゃねぇぞ。」
自分のコーヒーを口に運びながら斉藤が茶化す。
斉藤は、4年大学出で二つ年上なのだが、同期ということもあって、他の男性社員よりは気安く話しが出来るいいヤツだ。
最初は、他の社員と同じように私を女扱いしていたが、いつの間にか男同様に扱ってきて、今では営業で張り合う、よきライバル。
「あはは。そんなつもりないって。」
「珍しいな。なんか悩み事か?」
「いや…別に。」
そう答えたものの、なんか気分がのらないのは、自覚していた。
昨日、巧の家から食事に出て、送ってもらって(というか運転は私がしたんだが…)
自宅に帰って…。
結局、巧はあの後、体調は心配してくれたが、その日の出来事には触れなかったのだ。
あんなに切羽詰った感じで迫ってきていたのに、付き合うだのどうだのには…一言も触れなかった。
なんだか釈然としない思いが残って…。
まあ、付き合うかどうかという答えはもちろんNOなのだけど…。
ただ…巧の胸で眠っていたときの安心感が…
いままでに経験したことがなくて。
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