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いい子なの。
だから、彩に何もしないで下さい。
神なのか悪魔なのかわからないが…運命を司るものに私は願っていた。
「美香さん、コーヒー入れてきますね。」
巧が私のカップを手に取り、台所へ向かう。
一人暮らし用の小さなキッチンには、巧のあの一戸建ての家に比べて、生活感がなかった。
「ねぇ…ココもアンタの家なの。」
「そうです。まあ、厳密には達也用ですけど。」
「え…?」
「事務所兼という感じです。達也のみを知ってる人をあの家に入れるわけにはいけないので…」
「ふうん…女とか?」
「ち、違います。達也で取材活動してるんで、何かと…。」
尻すぼみに小さくなっていく巧の返答に、当たらずしも遠からずという感じを受けた。
まあ…あれだけプレイボーイの男が主人公の物語を書いてるんだもんね…。
「あっちの家だってずいぶん立派な家に住んでるじゃない。あんたっていいとこのボンボン?」
「違いますよ。…僕は…小学校のときに両親が亡くなったので、それから施設暮らしです。」
「…」
こともなげに言う巧にあまりにもびっくりして言葉が出なかった。
「あんまり遊びにお金使ったり出来なかったんで、図書館で本ばっかり読み漁ってたんです。じきに自分で物語を書くようになって…。それで、高校のときに試しに賞へ応募してみたんです。それが、運良く賞にひっかかって。
最初は、売れなかったんですけど、バイトしながら書いてて、5年ぐらい前に書いたミステリーがドラマ化されて収入が増えたんで、やっと生活していけるようになったんです。その後もドラマにしてもらえる作品が続いて。
『東京サイレント』も当たってくれたんで、去年、あっちの家のほうは、知り合いの作家さんに譲ってもらったんです。資料なんかの本を収納するのに広い書斎のある家が欲しくて。」
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