scene1 遭遇

10/27
前へ
/176ページ
次へ
 とにかく、やかましいのだ。 「お、おい来るぞ来るぞ」  仲間の一人が不安に駆られ道路を覗きこむと、その不安が一気に伝染して皆道路を覗きこんだ。  駐車場を西いくらかに過ぎたカーブの向こうからヘッドライトが明り、音の主は遂に姿を現した。 「うわ、なんかめちゃくちゃうるせぇ!!」 「なんだよあれは!?」  それが姿を現した瞬間、あまりのうるささに皆一斉に耳を塞ぐ。  ヘッドライトの光りが一瞬駐車場沿いの道路を照らした、と思った次の瞬間。  鼓膜を突き破りそうな甲高い雄叫びを上げながら、光と共に疾風はやてのように皆の目の前を怪物が駆け抜けてゆく。  あたりの空気が揺れたようだった。  耳にはすこし耳鳴りがする。  一瞬のことだった。  轟音が、エグゾーストノートが靡木の山々に響き渡っている。  不安を振り払うように、駐車場にいる走り屋達は一気に騒ぎ始めた。 「せ、セブン。FDだ!!」 「ああ、それもかなりめちゃっぱやだぜ!」 「あんなやつここにいたか!?」 「いや初めて見るヤツだ!」 「どんなやつが乗ってたかわかるか?」 「わからない、そこまで見えなかった……」 「あのうるささ、絶対エンジンノーマルじゃねぇ。かなりなハイチューンドだぜ、絶対そうだ!」 「アイツは何もんなんだ!」  智之をはじめ走り屋仲間たちは喋るのをやめようとしない。  ますますヒートアップしていき。もはや龍と貴志の勝敗の行方など、意識の外に放り出されていた。  皆ただ、あのいきなり現れたFD3Sにあわてるばかりだった。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加