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コーナーの向こう、アウト側の山肌をなぞるような光。龍はそれを見て、普段攻めているときより早めにブレーキングをする。
ここは天下の公道。いつでも誰でも走るのは自由。そんな誰かとすれ違おうかとするときに、どんなに全開でいこうが、ペースを落とすのは走り屋のセオリーなのだ。
例えバトルの最中でもそれは変わらない。
貴志も続いて、ペースを下げる。さすがに、この場面ではMR2に突っつきを入れるわけにはいかない。半ば「ちぇっ」と思いながら、対向車をやり過ごそうと思った。
光はコーナーを曲がり、龍と貴志と向き合った。その時。
(ヤバい!!)
二人の背筋に電撃が走った。
ヤバい、とにかくヤバい。
バトルどころではない。
二人はバトルのことを忘れて、突如現れた対向車から逃げるように速度を上げようとする。といっても今でも限界走行をしているのだが。
そうしなければいけないような気がしてならなかった。
言うまでも無く、光の主は駐車場の走り屋達を慌てさせたあのFD3Sだ。
二台とすれ違うやいなや、突然急激に回れ右、スピンターンをしてくるっと向きを180度方向転換する。
エンジンが激しく吼えると、峠に轟音が鳴り響く。怪物が雄叫びを上げている。
それに呼応してリアタイヤが激しく空回り、ホイールスピンし。けたたまくタイヤが鳴き出し、路面との摩擦から煙幕のように白煙を立ちのぼらせ。
蛇の這った跡のようなブラックマークをタイヤで描きながら猛ダッシュして、龍と貴志を追い掛け始めた。
二人の、智之の予感は当たったのだ。
逃げるMR2とRX-7。
FD3Sのドライバーは、龍と貴志がバトルをしているというのを知らない。しかし、知っていたところで同じだったろう。
腕試し、というところか。
すれ違った時、背中に電気が走るような感覚。乗っているのが誰だかはわからなかったが、はっきりとこっちを見ているのような気がした。
来る、きっとオレ達を追いかけて来る。
二台はハイスピードで走る。さっきよりも速く、速くと自身に言い聞かせる。
「なにもんなんだ、あのクルマ」
貴志は思わず叫んでしまった。バトルの事も忘れ、突然の乱入者の事で頭が一杯だった。
それほどまでにインパクトが強かった。
そんな二人の思惑など知る由もなく、謎のマシンは2台を追いかける。
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