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「おい香澄、しかけないのか?」
優はうきうきして香澄に問いかけるが、香澄は一瞬だけ優の方を向いて、くすりと微笑み、
「そうね。このままふたりの走りを見ていたいな」
と、言った。
「そうか。好きにしな」
香澄は自分のAIユニットに龍と貴志の走りをインプットしながら、じっと後ろに控えている。
先頭に立った貴志はステアを右に左にとカウンターを当てながらケツを振る愛機のコントロールを強いられて、後ろを引き離すどころではなかった。
「なんのかんので、龍はマシンをよくコントロールしているな」
2台の挙動の違いを見て、優はつぶやいた。
RX-7の挙動が落ち着かないのに対し、スープラは線路の上を走るかのようにきれいなライン取りで走っている。
「限界内でマシンをコントロールする龍に、限界を超えたところでマシンをコントロールする貴志か。なかなか、対極的じゃねーか」
2台の挙動を眺めながら、優は不敵に笑う。
さて、これからどうなるのか。
と、思惑をめぐらせたときだった。
対向車のヘッドライトが見えた、と思ったら。それと同時に赤い光もみえた。
「げっ」
「げっ」
「あら……」
「ありゃりゃ」
四人は同時に目を丸くした。当然だった。それは、パトカーだった。スカイラインの走り屋たちを散らしに来たのだ。
「ったくよお!」
龍と貴志は舌打ちし、香澄は冷静に、そのまま突っ走って。三国スカイラインの東側から逃げた。さすがの龍と貴志も、香澄も、パトカーが来ればどうしようもなく、逃げるしかなかった。
――それからも3台は離れ離れにならずに一緒に走って。最寄のコンビニに滑り込み。3台ならんで停車した。
「あーあ」
と眉をひそめながら龍と貴志が車から降り、香澄は表情ひとつ変えずに下車し、優もそれに続いた。
「せっかくノッてきたのによ」
調子が乗ってきたところで水を差されて、龍と貴志は不満そうにしている。
「しかたねーだろう。悪いのはオレたちだからな」
と、不敵な笑みで言う優。
香澄は腕を後ろ手で組んで、3人と3台を眺めている。
「まあ、冷たいコーヒーでも飲んで落ち着こうぜ」
と、優はコンビニに入ってゆき。龍も貴志も、眉をひそめたままコンビニに入ってゆき。それぞれ缶コーヒーを買い求めた。
駐車場に出て、それぞれの愛機の前で缶コーヒーをすする。
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