16人が本棚に入れています
本棚に追加
龍や貴志がいくら高い速度でコーナーを脱出しても、まるで ゆっくりと走っているかのように。恐るべきパワーと言うべきか。
FD3Sは、下手をすれば追突しかねないほどすぐ前の貴志のRX-7のテールにぴったりとはりつき。突然RX-7の車内にエキゾーストノートが割り込んできた。
内装が取り払われた鉄板剥き出しの車内では、自身のマシンの叫び声がガンガン響き渡っている。
なのにそれでも、聞こえるのだ。
ここまで大きい音がするということは、普通のエンジンチューニングではない。まるでレーシングカーのエンジンそのものであった。
「な、なんなんだ、アイツは!?」
突然の出来事に貴志はパニックに陥りそうになった。
前の龍はそんな貴志のことなどお構い無く、なるべく後ろを意識せず、前に向かって走っていた。
貴志のRX-7同様、龍のMR2も内装は取り払われ鉄板剥き出しだ。はっきり言って2台とも無骨な車内であった。
とても女の子とのデートになんか使えないが、それが目的で車に乗っているのではない。
走るために乗っているのだ。そのために必要の無い物を取り除き、必要な物を取り付けているのだ。
その車内の中で龍も必死に愛機を走らせている。
FD3Sが貴志のRX-7のすぐ後ろについたのはもうわかっている。
ミラーで見るより先に、その音がMR2の室内にも入りこんだのだ。これは龍も驚かずにいられなかった。
「あのエンジン、ただもんじゃねぇ」
我知らずに歯軋りをする。後ろに貴志のRX-7がいるために、はっきりとは聞こえないが。確かに音は聞こえる。FD3Sのまさに獣のような咆哮が。
いくつかのコーナーを抜け、コースももうすぐ終わろうとしている。走る音が駐車場の仲間達にも聞こえてるはずだ。
このコースのイヤらしいところは最後の方に一番長い直線があることだ。
直線を抜けると、コーナーはあと6つしかない。
最初のコメントを投稿しよう!