scene1 遭遇

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 どんなに必死に逃げても、パワーの勝る車にこの直線で抜かれてしまい、そのままゴール。今までもそんなバトルは何度かあった。  それがいやなら、直線につく前にコーナーで引き離しておくべきだ。それがパワーの劣る車での勝ち方というものだ。  だが今はそんなことは言ってられない。  FD3Sを引き離すどころか、追いつかれてしまった。今のままではその直線で、2台まとめてゴボウ抜きにされるかもしれない。 「ヤバい、マジでヤバい。なんとか逃げられないのか……」  すぐ後ろにつけられた貴志は頭が混乱しそうだった。  もうすぐ長い直線にたどり着く、それでも車は前に進んでいる。  龍と貴志の苦悩などお構い無く。  龍と貴志がそう走らせているのだ。  だからと言って、ゆっくり走る事など出来るわけもない。  FD3Sは完全に前の2台を射程圏内に捕らえて。ついに動き出す。  今右のコーナーを抜けた。左コーナーが迫り、そこを抜けるとまた右コーナーのS字区間。  そこをクリアすれば長い直線だ。  MR2とRX-7も上手くラインに乗せてS字区間を抜けてゆく。  RX-7のテールに張り付けんばかりに、ピッタリとその背後についてFD3Sも続く、が。なんだかFD3Sのドライバーはもどかしそうだった。パワーを生かしたいと思っているのに、満足に生かせないでいる。  前の2台は遅すぎた。  邪魔とまでは言わないが、もう少し速く走ってくれないかな、と思った。  しかしそれでも前は必死そうだ、これが限界なんだろう。 「人間って、こんなものなのかな。仕方ない、抜こうか……」  と言う、そんなFD3Sのドライバーのつぶやきなど知る由もなく。 最後の右コーナーをクリアして、MR2とRX-7はFD3Sをすぐ後ろにしたがえて直線に入る。  すこし下り気味になっている長い直線。  そこからゴールまでずっと下りだ。  加速する3台。  対向車はいない。  抜くなら今だ。
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