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どんなに必死に逃げても、パワーの勝る車にこの直線で抜かれてしまい、そのままゴール。今までもそんなバトルは何度かあった。
それがいやなら、直線につく前にコーナーで引き離しておくべきだ。それがパワーの劣る車での勝ち方というものだ。
だが今はそんなことは言ってられない。
FD3Sを引き離すどころか、追いつかれてしまった。今のままではその直線で、2台まとめてゴボウ抜きにされるかもしれない。
「ヤバい、マジでヤバい。なんとか逃げられないのか……」
すぐ後ろにつけられた貴志は頭が混乱しそうだった。
もうすぐ長い直線にたどり着く、それでも車は前に進んでいる。
龍と貴志の苦悩などお構い無く。
龍と貴志がそう走らせているのだ。
だからと言って、ゆっくり走る事など出来るわけもない。
FD3Sは完全に前の2台を射程圏内に捕らえて。ついに動き出す。
今右のコーナーを抜けた。左コーナーが迫り、そこを抜けるとまた右コーナーのS字区間。
そこをクリアすれば長い直線だ。
MR2とRX-7も上手くラインに乗せてS字区間を抜けてゆく。
RX-7のテールに張り付けんばかりに、ピッタリとその背後についてFD3Sも続く、が。なんだかFD3Sのドライバーはもどかしそうだった。パワーを生かしたいと思っているのに、満足に生かせないでいる。
前の2台は遅すぎた。
邪魔とまでは言わないが、もう少し速く走ってくれないかな、と思った。
しかしそれでも前は必死そうだ、これが限界なんだろう。
「人間って、こんなものなのかな。仕方ない、抜こうか……」
と言う、そんなFD3Sのドライバーのつぶやきなど知る由もなく。 最後の右コーナーをクリアして、MR2とRX-7はFD3Sをすぐ後ろにしたがえて直線に入る。
すこし下り気味になっている長い直線。
そこからゴールまでずっと下りだ。
加速する3台。
対向車はいない。
抜くなら今だ。
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