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それっきりだった。
それが最後の夜の終わりだった。
「あいつ、いまごろドイツのアウトバーンでも走っているかね」
空のとんびを見上げながら、ぽそっとつぶやけば。
耳に何かのエキゾーストノートが飛び込む。
「ん?」
と、その方を向けば、
「単車か」
と、バイクが1台駐車場に入ってくる。
それはシルバーカラーで独特のデザインのバイクだった。それはスズキGSX400S KATANAだった。
カタナのライダーは龍を見るとその方へとバイクを進め、そばで停まった。
誰だ? と思う間もなくライダーが黒いシンプソンのヘルメットを脱げば、それは貴志だった。
「や、貴志か」
「ああ、龍。お前来てたんだな」
「まあな」
ポケットから煙草を取り出し火をつけて、紫煙をくゆらせる。
「そういやあ、お前単車に乗れたんだな」
「ああ、走り屋のはじめはバイクだったからな」
貴志は脱いだヘルメットをミラーにかけるとバイクから降りて背伸びをする。
「RX-7はどうした?」
「売ったよ」
「売った?」
「ああ、香澄ちゃんがいなくなってから張り合いがなくなってな。なんか四輪も興味がなくなって、バイクに乗りたくなったのさ」
「そうか……」
「お前こそ、スープラ直したんだな」
「まあな」
龍は煙草を吸い込み、ふぅー、と煙を出す。
「オレはオレで、もうスカイライン走ってねー。サーキットを走っている」
「そうか」
「あいつのいねースカイラインなんざ考えられねーからな……」
それを聞いて貴志はふっと笑った。
「オレはオレで、のんびりツーリングさ」
「それぞれの道、ってやつか」
「そうだな」
言い終えて、ふたりして笑う。
(しかし……)
ふとふと、貴志は思うことがあった。
(マリーさん見なくなったなあ~)
勤め先のCDショップによく来ていた常連客のマリーが、ぱったりと来なくなった。彼女は彼女で、どこかに行ってしまった。それが貴志には寂しく、心残りだった。
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